みなさん、僕とギャンブルしませんか?
ギャンブルの内容は、
コインを投げて表裏を当てるだけです。
当たったら2万円差し上げます。
その代わりはずれたら1万円いただきます。
さて、どうしますか?
リスクを回避する
以下の選択肢をすべて読んでから、どれにするか選んでください。
▶決定1 次のいずれかを選択してください。
A・確実に24,000円もらえる
B・25%の確率で100,000円もらえるが、75%の確率でなにももらえない
▶決定2 次のいずれかを選択してください。
C・確実に75,000円損をする
D・75%確率で100,000円損するが、25%の確率で何も損しない
ぱっと見、AとCを比較してAは良いけどCは嫌だなと思ったのではないでしょうか。
人はまず、直感で確実なものを見分けようとします。これをシステム1といいます。
システム1はAとBを比較してAを、CとDを比較してDを選択する傾向にあります。
実際、ダニエルカーネマンが行った同様の実験では、被験者の実に73%がAとDを選択しています。
BとCを選んだ人はわずか3%でした。
それでは、つぎの問題に答えてください。
AD・25%の確率で24,000円もらえて、75%の確率で75,000円損する
BC・25%の確率で25,000円もらえて、75%の確率で75,000円損する
これはどうでしょう。
ほぼ100%の人がBCを選ぶのではないでしょうか。
当然ですね。BCの方が得なのが明白なのですから。
しかし、これは先の質問の形を変えただけのものなのです。
最初の質問を期待値で換算すると、選択肢Bはプラス25,000円、選択肢Dはマイナス75,000円です。
この期待値をひとつにまとめたのが2つめの質問なのです。
結果としては、先ほど3%しか答えなかったBCが圧倒的に支持される選択肢だったわけです。
狭いフレーミングと広いフレーミング
ではなぜ、あきらかに不利な選択肢を選んでしまったのでしょうか。
理由は2つあります。
- 人間は利得についてはリスクを回避し、損失についてはリスクを追求するから
- 最初の質問に対してすべての選択肢を総合的に判断することが出来なかったから
まず①は簡単です。
人は、目の前に確実な利益があればそれを失う選択肢を回避する傾向にあります。結果AとBではAを選びます。
また、損失については少なくしたいという心理が働き、リスクをおかしてでも回避したいという傾向があります。結果CとDでDを選びます。
②は、最初の質問がまさかすべてを冷静に見て計算し、BCが良いという結論に達するのが困難だからです。
2個目の質問を見た後だったらBCが良くないということはわかりますが、そうでなかったら判断は難しく、
そもそも決定1と2を総合的にとらえることすらなかなかできません。
そこでフレーミングという考え方が必要になります。
フレーミングには2つの考え方があります。
- 狭いフレーミング・・・決定1と2を分けて考える
- 広いフレーミング・・・AからDまでの選択肢をまとめて検討する
今回、必要だったのは広いフレーミングでした。
また、カーネマンは選択するほぼあらゆる場面で広いフレーミングが重要だ、と言っています。
しかし、最初の質問のときのようにシステム1が作動し合理的判断が難しいことが多々起こります。
広いフレーミングを使えるようになるには「見たものがすべて」という感覚をどれだけ取り除けるかが重要だ、とも言っています。
損失回避性について
冒頭でお話ししたギャンブルをやりたいと思いましたか?
人間は、損失の痛みは利得の喜びの2倍感じる!そうです。
このような心理を損失回避性といいます。
あなたが、冒頭のギャンブルをするのにためらいが生じていたならば、
損失回避性がにょきにょきと浮かび上がってきていたのかもしれません。
つまり、あなたの中で損失回避性によって痛みが2倍になり損得なしのまさにギャンブルになったのです。
しかし、冷静になってください。
もし、このギャンブルが2回3回と続くものだった場合、あなたが手にする金額(期待値)は確実にプラスになります。
これが、広いフレーミングです。
ほぼ負けのないギャンブルですが、ここまで思考できてもまだ躊躇する可能性があります。
そうです。狭いフレーミングに支配されている場合です。
この場合、狭いフレーミングとはコイン投げを一回一回切り分けて考えたときに発生します。
切り分けると感覚的に毎回の期待値は実質ほぼ0で痛みが期待値を上回っている感覚があるのです。
人生の選択肢
ここまでで得た教訓は、人生においてリスクがあまりにも大きくないと感じるギャンブルに直面したら、
大きな視点に立ってリスクをとるべきなのです
つまり、広いフレーミングですね。
何かを選択するときに、一回きりのギャンブルと考えるのはやめて人生全体のうちの一幕にすぎないという
大局観をもつことで人生のギャンブルを成功させれらるのではないでしょうか。
株式投資家の話では長期保有を前提とした場合、成り行きを見る回数を減らすと良い結果になることが多いようです。
細かくチェックすると損を目にする回数も増え、損失回避性が高まり、リスクを意識する回数が多くなり、
長期保有することができずに結果的に損失を被ってしまうそうです。
人生のギャンブルといえば転職や独立があげられるでしょうか。
迷っている人がいらっしゃるならそれは狭いフレーミングにはまっている可能性があります。
確かに、目の前にある選択肢をギャンブルと見立てると、損失回避性が働き身動きがとれなくなってしまっている人もいるかもしれません。
しかし、広いフレーミングを用いれば長い人生の中のひとつの選択肢にすぎないと気付くはずです。
そして、万が一選択に失敗しても、次の選択肢を見つけて行動し続ければいつかギャンブルに勝つ日がくるはずです。
ただし、あまりにも自分の実力とかけ離れた選択はおすすめしません。
それは、あまりにも勝ち目の薄いギャンブルになってしまうからです。
人生におけるギャンブルはコインの表裏をあてるものとは比較にならないほど複雑です。
ギャンブルをするなら自分が勝つ確率を高める努力を怠ってはいけませんし、努力はできるはずです。
ただギャンブルには負けることも念頭においておくことが重要なのです。
あなたが損失回避性を過度に意識せずに、チャレンジし続けるならばいつか人生のギャンブルに勝つ日が来るかもしれませんね。
また、会社の意思決定を担っているあなたには大きな視点で物事をみる意識を持つことをお勧めします。
例えば、部下がやりたいと持ち掛けたプロジェクトをそれ単体で評価し、損失が出そうだからやめさせる、ということは得とは言えないのです。
もっと広いフレーミングを使って、このプロジェクトを手掛けると全社的にどう影響がでるのか、
または、単純な損得勘定ではなくプロジェクトに携わった人間の成長や経験値まで勘案することが重要なのです。
目先の利益額を論理的にはじき出せるだけが優秀な意思決定者ではない、ということですね。
最後に
冒頭のギャンブルは冗談なのでやりません。
悪しからず。
必ず僕が損をします。
広いフレーミングを使えばお分かりですね。
それではまた次回お会いしましょう。