今日はあなたが昔からひいきにしているバンドのライブを3年ぶりに見に行く日です。
ライブは大いに盛り上がり、思いっきり楽しめました。
しかし、帰り路一緒に見に行った友人と些細なことでケンカになってしまい、そのまま帰宅しました。
さて、あなたのこの日の評価は何点になるでしょうか。
何点満点でも結構です。
じっくり想像して見てください。
例えば10点満点で8点とか9点と答えた人はなかなかいないのではないでしょうか。
通常の心理では一日の最後に友人とケンカしてしまったので高い点は付けづらいなと思いますよね。
しかし、少し冷静に考えると、前々から楽しみにしていたライブを存分に満喫した満足感は、大きいかったはずです。
それこそ、10点中9点以上は確実なくらいに。
でも、友人とケンカしたということで大きく減点してしまいました。
このような現象は、ピークエンドの法則と言って、物事の最高潮(ピーク)と最後(エンド)によって苦痛や快楽が決定するという心理的傾向のことです。
この場合は、せっかくピークが高得点だったのに、エンド部分で大きくマイナスになってしまった例です。
ピークエンドの法則の定義と具体例
もう一度確認します。
ピークエンドの法則とは、ピーク時と終了時の苦痛や快楽の平均でほとんど決まる、という現象のことです。
以下1990年代に行った調査を例に深堀りしていきましょう。
▶(例1)2人の大腸検査の苦痛の過程
- Aさん・・検査時間は短いが痛みのピークは強く、ピーク直後に検査が終了
- Bさん・・検査と痛みを感じる時間はAさんに比べて長く、ピーク時の痛みは同程度だが、検査終了に向かって痛みが和らいで終了
結果的に2人の検査に対する苦痛の割合はAさんのほうが大きかったことが認められています。
BさんはAさんより検査時間も痛みを感じる時間も長くピーク時の痛みも変わらなかったのに、終盤に向かって痛みが和らいだおかげで
検査後の不快感はAさんより低かったのです。
この結果から得られることは、苦痛を感じる時間の長さはそれほど大きくなく、終盤の苦痛の差が心理的に与える影響が大きいことがわかります。
さらに、この状況が示しているのは、ズバリ苦痛は最後の状態で決まる、ということです、。
Aさんはつらい状態で検査が終わっているので、最後の記憶が大きな苦痛になっているのです。
直前の苦痛が大きいほど後になって、より苦しかったと回想することになる傾向があるのです。
もうひとつ例をあげましょう。
真夏の暑いさなかエアコンが壊れてしまい緊急で業者に修理を依頼しました。
2人で来た業者はテキパキと仕事をこなし応対も丁寧でした。
修理が終わり業者が帰ろうとしたときに2人がヒソヒソ話しているところを聞いてしまいました。
「チッ!手当もつかない余計な仕事だったな!」
「まったくだ」
こんなことがあったらあなたはどう思いますか。
とても気分が悪くなるのではないでしょうか。
しかし、この2人が悪態をついたのは最後だけで、しかも直接あなたに向けたものでもないのです。
最初からおおむね良い感情を持っていたのだから、最後だけ悪い感情になっても全体的にはプラスになるはずです。
でも、そうはならないのです。
これがピークエンドの法則なのです。
最後の印象が悪くなっただけで、全てが台無しになった感じですね。
ピークエンドの法則を仕事に当てはめてみる
日々の仕事の場合を考えてみましょう。
2種類の仕事があると仮定しましょう。
ひとつは12時間かかる仕事、もうひとつは8時間かかる仕事です。ピーク時の苦痛はどちらも一緒です。
単純に比較すれば、12時間の方が、8時間より苦痛なのは当然ですね。
しかし、ここにひとつの要素を加えてみたらどうなるでしょうか。CさんとDさんで比べてみましょう。
▶(例2)仕事とピークエンドの法則
- Cさん・・12時間勤務で、最後は上司に褒められ同僚に尊敬の眼差しで見られ、自尊心が満たされた状態で家路につく
- Dさん・・8時間勤務、最後は上司に叱られ同僚からはもう帰るんですか?と嫌味を言われ自尊心が傷ついた状態で家路につく
人間関係どうでもいい!働く時間がすべてだ!という人なら話は別ですが、
DさんよりCさんの状態のほうが好ましいと思う方が大半ではないでしょうか。
これもピークエンドの法則といえるのではないかと思います。
楽しめる環境が大事!
炎の講演家鴨頭さんが言うには、
本当の働き方改革は働く時間を短くすることでは無い!楽しく仕事ができるようにすることだ!とおっしゃっています。
楽しく仕事ができないから働きたく無いんだ。仕事が楽しかったらむしろ時間を減らすことに注力するのはおかしいでは無いか!ともおっしゃっています。
鴨頭さんがピークエンドの法則を知っていたかは定かでは無いですが、言い得て妙ですね。
ストレスの回でもお話ししましたが、人間楽しいことには長時間携わっても体を壊すことはほとんどありません。
今回の結論は、現代の働き方改革とは、
働くことは苦痛だからその苦痛を少しでも和らげる為にせめて働く時間を減らしましょう。
と言っているようなものですね。
しかし、ピークエンドの法則によってそれすら効果がないと言えます。
だって、苦痛は持続時間とはほぼ無関係なのだから。。。
効率化は考え方によっては悪なのです。
業務時間を減らす目的でする効率化は諸刃の剣です。
効率化を図ったのちに仕事の苦痛をできるだけ取り除き、仕事を楽しめる環境を作ることが大切なのです。
それは、決して高価なシステムを導入することでもなく、
従業員がプログラミングを覚えることでもなく、
ましてや人手が足りないと言う理由だけで人を増やすことでもありません。
お互いが承認できる環境を作ることだと思います。
お互いを尊重できれば、現代に無数に存在するハラスメントが起こりようがありません。
ちなみに、
「お互いを承認する環境ができれば全てが改善する」
この考え方を教えてくれたのも、鴨頭さんでした。
一言で言えば理想論です。人間はそんな単純にはいかないでしょう。
その理想論をバカ真面目にひたすら訴え続けている人です。
しかし、僕はこの人の考え方に一票を投じます。
だって、厚労省が推進している働き方改革よりよっぽど夢があって楽しいから
仕事が楽しくなれば苦痛のことを考えずに常に楽しく過ごせます。
そうなれば、ピークとエンドの時だけでなく、全ての時間を等しく楽しく感じられる時が来るかもしれません。
各企業でマネジメントをされている方は参考にされてはいかがでしょうか。
人生そのものもピークエンドの法則が成り立つ
人生にもこの法則が成り立ちます。
他人がある人の人生の絶頂期と最期を評価する際に、
対象者が亡くなった年齢は評価にほとんど影響がありませんでした。
30才で亡くなっても70才で亡くなっても評価に変わりがないのです。
それよりも、その人の絶頂期と最期の瞬間が幸せだったかで評価する傾向にあります。
例えば、起業で成功し莫大な富を築いたが、晩年、会社は倒産し家族や友人もいなくなった末に亡くなった人の評価は著しく低かったのです。
最後のほんの数年の凋落で評価がガタ落ちです。
ここから得られる教訓は、ピーク時も重要だけど最期に笑って死ねたらそれは最高の人生だということですね。
人生のエンディングを良い形で迎えられることが、全てなのかもしれません。